1 顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺とは顔面神経の走行上の一部で神経が損傷を受け 変性を起こし末梢への伝達が止まることによって起こる、顔の片側に現れる表情筋の筋力低下、または麻痺のことをいいます。
小脳橋角部から出た顔面神経は側頭骨内の骨性神経管を通り、顔面部の表情筋に分布しています。炎症の好発部位(起こりやすい箇所)は この骨性神経管内の一層細くなっている膝神経節という箇所で、ここで起こった神経の炎症は神経管の内圧を高め、神経そのものに損傷を与えてしまいます。その損傷部から末梢への神経伝達が止まり、顔面神経麻痺の発症へと至ります。
2 症状
顔面神経には 表情筋を主る固有顔面神経、知覚と副交感神経の分泌を主る中間神経、の 2種類があり顔面神経走行上の損傷の部分によって表出する症状が変わります。
大きくは側頭骨外、側頭骨内、のどちらで起因するかにより、表情筋の麻痺だけでなく 味覚低下や聴覚過敏、涙腺分泌低下 等の症状も併発します。
約 4 割は麻痺症状のみの出現です。神経の損傷部位による症状は以下の通りです。
側頭枝:前頭筋の麻痺(眉の下垂・視野狭窄)
頬骨枝:眼輪筋の麻痺(開眼不可~兎眼~角膜炎)
頬筋枝:口輪筋の麻痺(口角、上唇の下垂・ほうれい線消失・食べ物がこぼれる)下顎縁枝:口輪筋の麻痺(口角、下唇の下制不可・下唇が健側に偏移)
損傷した神経は再生を始めますが表情筋まで到達するのに約3カ月を要します。
再生時、神経束構造を持たない顔面神経は薄い絶縁体だけで他の神経と密接した状態にあるため異所性興奮(間違った接続)が容易に起こってしまいます。これが後遺症となる病的共働運動の原因となります。
3 原因
・ベル麻痺: 単純ヒトヘルペスウィルスⅠ型(HVS-1)再活性化による神経炎
・ラムゼイハント症候群:水痘帯状疱疹ウィルスが再活性化
・外傷性 : 側頭骨骨折などに合併
・耳炎性 : 中耳炎、真珠腫による
・聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍の切除術に伴う顔面神経損傷
4 検査
耳鼻科受診し、原因、障害部位、神経の損傷程度を検査(この時、中枢性、脳疾患である可能性は排除しておく)
柳原40 点法: 9 種類の動作の可否から合計点を算出し、その点数により麻痺の程度の判断と経過観察、予後の推測を行う検査法
ENoG(電気生理学的検査) : 患側の正常な神経の量を計測することで神経断裂が生じているかを計測、迷入再生の可能性を確認する検査法
以上の検査結果を参考にしながら治療の方法が決まります。
5 医療機関で行われる治療
急性期/発症1 週間以前 ~ 亜急性期/1 週間以降 1 ヵ月以内~慢性期/1 ヵ月以降 と発症後の経過日数によって治療内容が変わります。
発症後、早い時期からの積極的な治療により予後が変わってきますので 早目の治療開始と適切な処置が重要になってきます。
ただ、必ずしも治療で完治するとは限らず、以上の治療を行っても変化が出ない場合が一定の割合で存在します。
治療の終わったタイミングからは リハビリテーションを続けることとなります。
6 顔面神経麻痺に対する鍼灸・スーパーライザーの併用
麻痺症状に対して、炎症の緩和や血流促進などを目的に、鍼灸とスーパーライザーを併用します。
鍼灸治療では実際に表情筋を確認しながら顔への施術や全身の調整を、スーパーライザーでは星状神経節や局所に照射を行い深部神経の再生を促します。
鍼灸とスーパーライザーの併用で期待できること
・消炎(炎症を抑える)
・交感神経の抑制(血流促進)
・細胞の活性化(神経再生促進)
これらによって、多くの事例で顔面麻痺症状の改善例がみられます。
発症後ある程度経過した症例においても鍼灸とスーパーライザーの併用により、スコアの上昇と拘縮の軽減がみられるケースも多いので、発症後の経過日数にかかわらず、鍼灸とスーパーライザーの施術を検討いただきたいと思います。
西村 和重(鍼灸香里治療院)